冷静さのウラ側で 〜TSOの記憶〜
それにしてもライブの決まった当初こそ興奮島倉千代子だった私ですが、実は不思議なことに、時間の経過とともに次第に冷静になっていく自分に気がつきました。いつもなら本番が近づくにつれテンションが上がっていくはずなのに逆にクールになっていくというのは、初めての感覚でした。もちろんモチベーションが下がったということもありませんし急に飽きちゃったわけでもありません。早く当日にならないかなあとずっと待ち遠しかったですし、早くメニューが来ないかなあと首と鼻の下を長くして待っていたんですから。それはまたリハーサルが始まってからも同様で、曲もやることもいっぱいあるのにいつものクルシタノシイとも違う感覚でした。いったいなぜなのか…?どうしてそんな状態になっているのか自分でもまるでわかりませんでした。なんでだろう…?昆布が海の中でダシがでないの。曲数の多さに圧倒されて無意識に開き直っちゃったのか、燃え尽き症候群(やってもいないうちから)になってしまったのか、ただ単に年を取ったからなのか、もしかしたらこれも大吉効果なのか、理由は貞子ではありませんでしたが、そんなことばかりいつまでも考えていても仕方ないので、まあこれはこれである意味何かひとつの境地に達したと思えばいいか、と都合よく受けとめることにしました。そしてコレはいわゆるひとつの自然体で大舞台を楽しめるってことじゃないかい、などと勝手に一流アスリートにでもなったつもりでいることにしました。
そしてそんな盛り上がりつつも冷静だったという部分で功を奏したのは、最初に送られてきたメニューを見たときのこと。
びっしり書かれた曲目に目を見張りながらも、いつもならすっかり舞い上がってアゲアゲくんになり不意に東の空を見上げては、よおしやってやるからなあ!チックショー太陽がまぶしいゼ!!などと無意味に心の中で叫んでしまっただろう私が、今回はちょっと違いました。曲順表をひと目見て、あぁこれは終演予定時間には到底終演しないなと思った(この時はまだ尺を縮めるとは考えなかったのだが)のは、まあいつものことだとして、同時にこの時点で、今回は比較的余裕を持たせているなと感じていたリハーサルのスケジュールが決してそうではなく、むしろあまり細かいところにかける時間はなくなるのではないか、と読んだのです(実際それは現実となるのですが)。つまり、全体リハで合わせられないなんてことのないよう、個人的にやるべきことはやっておくのは当たり前なんですが、おそらく余裕がなくなるであろう今回、もしリハが始まってから新たなことややるべき課題が与えられたとしても、それに対応するにはこれまで以上の困難が伴うであろうと推測したのです。光田さんからの思わぬリクエストに困惑する自分の姿は容易に想像できましたから、そうならないようできるだけ事前に危険なポイントを見抜き、先手を打って準備しておくべきだろうと考えた冷静沈着、クールジャパンの私。あえてヒロミゴー風に言うなら、
♪クールジャッピャアァ〜〜ンッッ!!
(だからわかりづらいしあえて言う意味も不明)
の私。そこであらためてつぶさにメニューを見ていくと、ふとある曲名に目がとまりました。
(!…こ、これは!?……来る!!)
そう、メニューの終盤に『こんにちはさようなら』の文字を見つけた私は、その瞬間確信しました。
(こ、これは間違いなく〝たて笛〟が…来る!!)
もうたちまち頭の中は貞子のテーマがグルグルと回りだします。
♪く〜る きっと来〜る きっと来〜るジャッピャアァ〜〜ンッッ!!
と時おりヒロミゴーまで乱入してくる騒々しいヘビーローテションの中でも、私は落ち着いていました。卒業式をテーマにした、しみじみとなつかしいこの曲を演奏するのであれば、光田さんは間違いなく『たて笛』いわゆる『リコーダー』を入れてくるはずだと確信したのです。実際、昨年は加藤さんと荒井さんが間奏でリコーダーを吹いてほのぼのとした雰囲気を作ってくれましたし、さかのぼれば10年以上前のツアーで私もこの曲を吹いたことがあるのです。必ず来るとわかった以上、手をこまねいている場合ではありません。何しろ本番まではわずか10日ほど。事は急を要しました。そりゃあそうです。いくら自分も吹いたことがあると言ってもそれははるか昔。どこまで覚えているかなんてやってみなければわかりませんし、むしろすっかり忘れている可能性だって高いのです。なぜならTSOですから。USBメモリーじゃなくてTSOメモリーですから!今すぐにでも練習を開始しなければリハどころか、もしかしたら本番にも間に合わないかもしれない。ここで初めて私は焦りを感じました。ところが…
(…ヤバい!練習しようにも楽器がなくちゃ…)
そう、肝心のリコーダーが…ない!
by cicocico
| 2017-03-10 00:39
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